●○ バーチャンの書評 2005 ○●

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 2005年もあっという間に過ぎました。年を感じること、年々ひどくなっていきます。しかたのない話。昨年は187冊をリストに追加し、DBも3000冊の大台にのりました。でも、この先10000にはなりそうもないので、特にお祝いはなし。記念すべき3000番目も特に意味もなし。

 読み直してみると、小説よりも科学ものの点が甘いのが分かります。これは単に趣味の問題ではあるのでしょうが、しかし読んで迫力を感じるようなしっかりした小説に出会わなかったのが大きいのでしょう。かつてなら、フレデリック・フォーサイス、ディック・フランシス、そして山田風太郎というところに期待していたわけですが、アヴェンジャーが大したことなく終わり、競馬シリーズは永久に消滅したらしいし、風太郎氏にはもうお目にかかれない。

 というところで例年のとおり、2005年心に残ったベスト10冊と、トホホ10選を。ベストの方は読んでみてください。トホホの方は、読む機会があったら感想を比べてみたい。
 なお、某所で公開した2005年の推薦本とは必ずしも一致しません。これは時期の問題もあるけれど、推薦と感激とは違うという証拠でもあります。

バーチャン@馬場 泰

Best10
源平合戦の虚像を剥ぐ 川合康
鎌倉幕府は源平合戦というものの結果ではなく、治承・寿永内乱という大規模な内戦の結果だったという新発見。
●数学ができる人はこう考える シャーマン・スタイン
説明の明快さ、論理の軽やかさ、どこを読んでも、どれも考えても、数学の世界に遊ぶ教師が見せる姿に驚かされる。
●インチキ科学の解読法 マーティン・ガードナー
今回やり玉に挙がったのは、UFO、エジソン、反ダーウィン、リフレクソロジー、人食い人種の話、フロイトほか。
●SFバカ本 大原まり子・岬兄吾編
SFの本質はバカ話にあり。日本でもこれだけバカ話ができる作家がいるとは驚きと喜びということになる。
●地震は妖怪 騙された学者たち 島村英紀
人の営み、自然の営み、そして人間の悪意、こうしたさまざまな妖怪に翻弄されながら地球そのものを相手に研究を続けている地震学者。
●人類はなぜUFOと遭遇するのか カーティス・ピーブルズ
UFOという妄想が生まれ蔓延する、妄執そのものの生態を正確に調査検証した、記念すべき本。
●世界軍事学講座 松井茂
軍備を整備し、戦争を有効に遂行するということがきわめて明確に示されている。世界軍事学などとおおげさな、誇大妄想ではないかと読み出したらとんでもない話。
●自然の中に隠された数学 イアン・スチュアート
出だしはまさに数学の話で、特に面白みもないのだが、中盤あたりで摂動やカオスの話になるととたんに面白くなってくる。まさに世界観の問題。
●ファインマンさん、力学を語る D・L・グッドスティーン
ハプニングを演出した怪しげな観光旅行が、いつのまにか南米小国の軍事演習とからまって。ずれていくのは主題ではなく、登場人物の生き方そのもの。
●太平洋−開かれた海の歴史 増田義郎
はるか紀元前から太平洋を自由に横断して活発に交易を繰り返していた民族。日本はその代表になれたものを、いつの間にやら中国だけを見るようになった。

トホホ10
●歴史の使い方 堺屋太一
しょせんはお役人の発想、引き締め財政政策は間違いで、拡大インフレにしか興味がない。これが歴史書の棚にあるのは間違いで、プロジェクト管理か政治だ、トホホ。
●インターネット犯罪 河崎貴一
オウムと自殺サイト、アダルトサイトとウィルス、そしてハッキング。ま、煎じ詰めればこの程度の分類しかないのだ、トホホ。
●嫉妬の世界史 山内昌之
日本史、世界史における「ほとんど男だけの」嫉妬の世界。しかし何もかも嫉妬だとか妬みだとかにしてしまうのは、牽強付会、強引すぎる、トホホの世界。
●戦争の真実 林信吾
要するに感情論。日露戦争からイラク派兵まで、日本の軍事行動を気分で批判して見せた、評論もどき。事実に対する掘り下げはない。トホホな真実。
●レトリックと認識 野内良三
そこらじゅうの文書や詩や歌や、その表現を分解解析してはレトリックと叫ぶ、その偉そうな様子といったら。トホホな権威。
●チョコ猫で町は大騒ぎ ジョアンナ・カール
すぐにネタが割れるし、悩むこともまったくない。危なげない、心配のない、安心できる、お嬢様向け読本。好みの問題です、トホホ。
●成功術 時間の戦略 鎌田浩毅
このテのノウハウ本は読むだけ無駄だとわかっていたはずなのだが、ひょっとしたら少しでもいいことがあるのではないかと期待したのが情けない。読んだのがトホホ。
●世の中意外に科学的 櫻井よしこ
別にめずらしくもない、「最近の科学の話題」。よほどめずらしいと感じたのだろう、感激したのだろう、それはいいのだが、それ以上のことはない。この人もトホホ。
●デジタル・パラノイア 吉田司
自ら電脳無知というだけあって、説明しようとしているらしいポイントはみな頓珍漢。けっきょくは何を言いたいのか分からないまま。これで本になるトホホ。
●不可思議アイランド 山田正紀
せいぜい小学生の作文程度のものが並んでいるだけ。これほどとは思わなかったトホホ。
●ゴールデンダズン 夏樹静子
すべてトリッキーであることだけで書かれた短編。したがって不自然で、動機が存在しない。トリックそのものも机上の空論であろう。これが大御所かとトホホ。