●○ バーチャンの書評 2007 ○●

例年通り2007年の書評をお送りします。

 昨年1年間に読んだ本が42冊。一昨年、年間100冊を切ってからはもう下り坂を降りるばかり。緑内障というのは治らないから。書評らしいことも今回で終わりにするのもやむなしです。
 最後に読んだのが7月で、それ以降ゼロだということもあり、10冊を選ぶというのもなかなか難しいところがあります。ましてやワーストは無理と判断して、今回はベスト10だけ。一部は1月〜8月にご紹介したものと同じですが、なるべく違うものを選んであります。紹介ではなく推奨にしたいから。

バーチャン@馬場 泰

Best10
●空間の謎・時間の謎
内井惣七
ニュートンとライプニッツの論争の趣旨と、ライプニッツが主張した「時空の関係説」。ライプニッツの思想の優位性を哲学者の目から見て解説し、そのネタを元に宇宙物理学の最前線を説明する。理論物理学の世界、相対論、量子力学、波動力学、そんなものがすべて哲学的なものの見方に依存した理論体系の話であったとは、驚くばかり。逆に言うと、まるで理解できなかったということですが。
空間の謎・時間の謎―宇宙の始まりに迫る物理学と哲学 (中公新書)
●失敗百選 (1月) 中尾政之
失敗学の教科書。読んでためになる失敗物語。
チャレンジャー号の事件は、低温による影響ではなかった。タイタニック号の鉄板が低温のために氷山で切り裂かれたというのはウソで、リベットがもげただけ。等々、技術者としても知っておくべき事実ばかり。
失敗百選 41の原因から未来の失敗を予測する
●拒税同盟 (2月)
水木楊
税の「支払い」の拒否。そもそも、既存の権力構造や権威や偉そうな奴や物が大嫌いなものだから、こうした反骨精神に同感しないわけはない。それにしても、やり返すためには、外為法違反を認めて執行猶予付きとはいうものの有罪判決を受けなければならないところが、実に現実的な問題ではある。
拒税同盟 (日経ビジネス人文庫)
●暗黒の塔 スティーヴン・キング
ついに終結。最後の3冊だが、実は最後の1冊は読んでないので悪しからず。
著者本人にも、話がどこに進んでいくか分からなかったに違いない、しかも交通事故で瀕死の重傷を負うという事件もあって、それすら本のネタにしてしまうというものすごさ。
荒地〈上〉―暗黒の塔(ダーク・タワー)3
●隠し部屋を査察して
エリック・マコーマック
グロテスクの一言で尽くされるような短編小説群。次から次に繰り出される奇形と悪趣味の極致は、ほめるために奇想と呼べるような範囲などはるかに超えていて、人間の想像力が及ぶところではない。ある一線を越えた瞬間に、こんな発想とストーリーが流れ出すに違いない。明らかに読む人を選ぶ。
隠し部屋を査察して (創元推理文庫)
●千里眼事件 (5月) 長山靖生
明治に現れた透視、念写。今から見ればあまりのばかばかしさにあきれるばかりだが、今でも民間レベルではちっとも変わっていないし、マスコミがいいかげんな記事であおりたてるという構図は全く変わっていない。
千里眼事件―科学とオカルトの明治日本 (平凡社新書)
●再起 (6月)
ディック・フランシス 
6年ぶりに帰ってきた、シッド・ハレーの物語。多くを語る必要もない。
再起 (ハヤカワ・ノヴェルズ)
●吾輩のご主人 (7月)
原口緑郎
南方熊楠、稲垣足穂、岡倉天心、茂田井武、熊谷守一、春日部たすく、津高和一、アブラハム・リンカーン、シュヴァイツァー博士
先頭3人を除けば、後は猫などほんの付け足しで、エピソードのかけらにすぎないが、まぁ猫の紹介であるということだけで我慢しよう。
吾輩のご主人―天才は猫につくられる
●感染症は世界史を動かす
岡田晴恵
ハンセン病、ペスト、結核、梅毒、新型インフルエンザ、歴史の裏で流れを支配していた感染症。
21世紀の問題はエイズではなく、新型インフルエンザ。それも、ブッシュでさえ対策をぶちあげているのに、日本では無策だと。この予言が当たるかどうか、楽しみにしては困るが。
感染症は世界史を動かす (ちくま新書)
●信長殺し、光秀ではない 八切止夫
信長殺人事件の容疑者は数多くいる。それぞれの動機を確認し、事件後の足取りを追うことで、定説を徹底的に否定してみせるのが、著者のやり方。それにしても、信長を葬りたがっていた人物がこれほどたくさんいたというのがすごい。
日本に記録が残っていないから、わざわざマカオまで宣教師の足取りと記録を追い続けたというのもご苦労な話。
信長殺し、光秀ではない (八切意外史)

以上10冊、諸姉諸兄の眼鏡にかなうものがあれば幸いです。

これまでの拙文は、以下のページにまとめてもらっています。ご参考まで。
http://fuchu21.net/open/bachan/

蛇足ながら、前回ご紹介したジョークの続きで、新婚夫婦のホテルの朝、
  「ねぇ、朝食は何がいい?」
  「私が好きなもの知ってるでしょう?」
  「そりゃあ知ってるさ、でも食事もしないと」

これで笑っていれば平和な年です。